こんなときに思い出せるのは、鮮烈な色彩を抱いた他愛ない日常のことだったりする。

下手くそな朗読劇、放課後のゲームセンター。きみが厭うものだから、ついぞ入店することの叶わなかったハンバーガーチェーン店。


それは誰しもが持つ原風景。あまねく人々が退屈と定義する、わたしのゆめのかたち。

黄昏のあまさを共有しあったことも、その遠景の内側で笑っていたきみの顔も、疾うに擦り切れ果てていた。


苦痛は幾百年前に喪った。歓びもまた先の季節で凍りづいてしまった。その時に涙腺もまた捨て去ってしまったのだろうか。もう随分と長く泣いていない気がした。

感覚もなく、ただ呼吸をするかのように円環する世界。

此処で許されているのは、ゆめみることだけで。未だ捨て去れない約束を忘れることができず、かの人の云う百年を微睡み続けている。


白み始めた朝空を思い、いたずらに祈りをしたためた。

明日こそが、再びまみえるその日でありますよう。なんて。



(百年待っていてくださいとほころぶように笑った彼等に、再演の幕が上がる)